世界でいちばん、大キライ。
バタン、と閉まった玄関を見つめ、麻美が言う。

「ヒサ兄。本当にいいの?」
「……いいっつーんだし、大丈夫だろ」
「それはあたしが言ったからでしょ。今日学校でも言ってたけど、最近不審者多いみたいだけど?」

「大丈夫」だと言うわりに、自室に戻ろうともせずその場から動かない久志に麻美が目を細める。
腕を組みながら久志に物を言う姿は、まるで対等な……オトナのようだ。

元々どこか迷っていた節のある久志は、その一言でようやく足を動かした。

「……ちっ」

軽く舌打ちをし、部屋からパーカーを乱暴に拾い上げると勢いよく羽織ってスニーカーに足を突っ込んだ。

「いってらっしゃーい」

涼しい顔で麻美が言うと、それを背中で聞いてはまた小さく舌打ちをした。


そんなことを知る由もない桃花は、すっかり陽が落ちて寒くなった夜道にマンションから出たところ。
出口で着たジャケットの前を縫い留めるように抑えると、ぶるりと身震いさせて踏み出した。

カフェの方向に歩いて行く。
住宅街だからか、暗くなると出歩く人がぐんと少なく、代わりに家々に灯かりが灯っている。

ポケットに手を入れて俯きがちに足早に歩き進めると、こちらに向かってくる人の足音が聞こえた。
ふと、視線を少し上げると、暗くてよくわからないがどうやら男のようだ。

気にし過ぎかもしれないが、少し警戒するように脇に膨らむようにして歩き続けると、すれ違う数メートル手前で不運にもその男と目が合ってしまった。

「――あ……」

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