櫻の王子と雪の騎士 Ⅰ
「全く知らないわけじゃないんです。どこかで必ずお会いした事がある筈だから......思い出します!
だからまだ、離れないで......」
言い訳のように早口にそう言うと、男の人は小さくコクリと頷きルミの手を引いて、大きなその体で私を包む。
すると、さっきは感じなかった匂いがした。
どういう匂いか形容するのが難しいけれど、すごく心地よく私の中を満たしていく。
(やっぱり、知ってる......)
一体あなたは誰なのだろう。
記憶を隅から隅まで、片っ端からひっくり返し探すのだが見つけることが出来ない。
思い出したいのに......
もどかしそうに「ウーーン」と唸る姿を見て、黒髪の男の人はふっと笑いもう一度大きく頭を撫でた。
そして、耳元で囁く。
「教えて、あげようか? 俺と君とのカンケイ......」
耳にかかる彼の息に、くすぐったくてまた首を引っ込めてしまう。
それに、変に艶っぽく色気のある声でいうから、少しだけ頬に熱が集まったのが分かった。
耳を隠すように押さえて、ほんのり頬を赤らめて睨むと、彼はしてやったりとクスクス笑いながら見つめる。
ひとしきり笑い終えると、再度尋ねる。
「で、返事は?」
もちろん
「知りたいです。教えて......」
わざと、彼の目を見て首に手を回し、懇願するように。
仕返しのつもりだった。
(効果はないだろうけどさ......)
しかし
「?」
目の前の男の人は、思ってもいない反応をする。
「............っ!!」
キツめの黒い瞳を見開いて、顔を真っ赤に染めるではないか。
見られていると気付いたのか、バッと顔を伏せるのだが、黒髪の合間から除く耳が赤い。
(何だ、この人......)
怖い見た目に反して、優しい顔も出来るし、可愛い反応もする。
そんな彼にフフっと思わず笑っていると、
「......あのなぁ」
と、彼は顔を覆う手の指の隙間から鋭い瞳がこちらを睨むように見るのだが、最早怖くないし、そんな攻撃痛くも痒くもないと得意げに微笑を浮かべる。
...ちっ
(あっ舌打ちした......)
彼が不機嫌そうな顔を上げていた。
だが、まだ頬がうっすらと赤い。
「怖くないですよ」
微笑みながらそう答えると、男の人は目線を逸らし
「......知ってるよ。昔っからそうだから
記憶がなくても、そんな所は全然変わらない」
そう、答えた。