櫻の王子と雪の騎士 Ⅰ









「私だけが、行く方法?」



庭の端の倉庫前で、ルミはノアに問いかけた。



『いいか、そもそも光と影は表裏一体。光が我々のいる表の世界だとすれば、影はその裏にある世界になる。影の部屋はその裏に存在する部屋で、唯一表の世界に限界まで近づけた場所だ。その入口に当たる黒塗りの壁は裏の世界そして表の世界全てに繋がっている』



はっと何かに思い当たったのか、ルミはノアを見た。




「要するに...影の部屋の扉からどこへでも行けるということ?」



その通りだと言うように大きく頷くノア。



『しかも、それは一方通行ではない。エンマによって認められた人間、つまり影の部屋へ一度でも足を踏み入れることがある人間を影の住人というが、この影の住人のみがその扉の力を使用することが出来、如何なる場所からでも影の部屋へと直接向かうことが出来るんだ』



なんと、ここに来て《どこでもどあ》なる物が実在するとは。ルミは驚き、同時にまたしても空想の物が実在している事への喜びを顕にした。



「じゃ、じゃあ、この扉を開ける前に、影の部屋に行きたいって言ったら通じるって事??」



興奮気味に、前のめりになって尋ねるルミに、いささか困惑気味のノアだが、当人は至極落ち着いて話を進める。



『いや、別に言わなくてもいい。頭の中で思い描くだけだ。ただし、表の世界から影の部屋へ行く場合、一度裏の世界つまり影の空間を通ることになる。私はその場所へ行ったことはないが、どうも不安定な場所らしい。その空間で迷えば二度とこの表の世界には戻ってくることは出来ない』



少しばかり興奮気味に聞いていたルミは、後半のノアの言葉にぞっとした。



道を踏みはずせば、帰ってくることはできない。そういったリスクもあると言うことだ。



ルミの背を冷や汗が伝う。



『まあ、ルミなら大丈夫だろう。影の部屋へ行く、その思いをぶらさず持ち続ければなんてことはない』



ノアのその言葉にルミの緊張が少し緩む。



方法を伝え終わったノアは今までよりも更に真剣な面持ちでルミに尋ねる。



『もう一度聞く。少なからずリスクを伴うこの方法知り、それでも影の部屋へ行きたいか?あの方に会いたいと思うか?』



どんな状況であっても、どんなに命懸けであってもルミの意志は変わらない。



「行く。あの人に会わないといけないの」



迷いの一切ないルミを目を見て、ノアは大きく頷く。



そしてルミは、影の部屋を、シェイラを胸に描き、静かにドアノブを回した。





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