櫻の王子と雪の騎士 Ⅰ




暗く静かな場所。



それが影の空間の第一印象だ。



扉を開けた瞬間、そこは倉庫ではなく真っ暗な闇が広がっていた。ルミはそこに足を踏み入れたのだ。



その闇の中は道があるわけでもなく、かと言って無重力のようなふわふわとした感覚ではない。



一応立つことはできるし、何かを踏みしめた感覚はないが何とか歩くこともできる。



ルミは必死に前へ進もうと足を動かした。しかし進んでいる感覚はあまり感じられない。



(不安定ってこういう事か.........)



ノアの言葉を思い返し、妙に納得する。



空間自体が不安定な上、先が見えず進んでいる様子も感じれないせいで心さえを不安定になっていく。



ルミはただ、影の部屋を頭に描き淡々と歩みを勧めた。不安になったら終わりだと思ったから。



この方法を教えてくれたノアを信じて、ひたすら前に進む。



徐々に、足元に何かを踏みしめる感覚が戻ってくる。闇が徐々に薄らぎ、通路らしきものがうっすらと姿を現す。



それは初めて影の部屋へと行ったときエンマと一緒に歩いた道だった。



もう少しで部屋へ着く。



シェイラやエンマにもう一度会える。



その思いが溢れ、だんだんその歩みは駆け足へと変わっていった。



小さなヒールが軽快に音を鳴らし、通路の中で反響する。それを気にもせず、ルミは走った。



目の前に黒塗りの扉が見えたとき、ルミの感情は最高潮に達した。



痩せ細ったシェイラの顔が頭の中を支配する。影の部屋よりも、シェイラへの思いが先行していた。



必死に扉へと走る。



息も切れ切れに、ルミはドアノブにその手をかけた。



そして、勢い良く黒塗りの扉を開いた。




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