薫子さんと主任の恋愛事情

八木沢主任が強気の顔でいるのは面白くないけれど、それもこれも颯のため。

「条件って、なんですか?」

「それはオッケーとみなしていいんだな? 聞いてから『嫌だ』とか言うなよ」

言わないから、早く条件を提示してくれないかしら。

適当にウンウンと首を縦に振ると、八木沢主任がニヤリとしたり顔。

え、何? 今の顔。

八木沢主任の一度も見たことない顔に、心臓がざわつき始めた。

『大丈夫。大丈夫だから、落ち着いて薫子。今すぐ君のもとへ行くよ』

八木沢主任の手元でこちらを向いて微笑んでいる颯が、私に優しく囁きかける。

そ、そうよ、颯を取り戻すためならば、私はどんな試練も乗り越えてみせようじゃない!

「待ってて、颯」

「ん? 西垣、なにか言ったかぁ?」

そんな小さな声で言ってないから聞こえているはずなのに、聞こえてないようなふりをする八木沢主任に苛つきながらも左手を差し出した。

「早く条件を言って、颯を返してください」

「へぇ、このイケメンは颯って言うんだ。俺の名前は大登(ひろと)だぞ」

知らんわ、そんなこと。

心の中の私の口が、だんだん悪くなる。



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