薫子さんと主任の恋愛事情
『二十八にもなってアイドルってさ。喜んでいいのか、どうなんだかな』なんて、八木沢主任が工場長と話しているのを聞いたことがある。
アイドルなんて誰にでもなれるものじゃないんだから、素直に喜んでおけばいいのに。
まあそれこそ私には関係のないことだけど。私のアイドルは、颯ひとり。他の誰にも代わりは出来ない。
だ・か・ら!
私には、そんな顔見せても無駄。
「早く返してください!」
もう我慢も限界。颯欠乏症、発症間近。このままでは午後の仕事に影響が出てしまう。
それでもいいって言うんですかっ!!
当然直接そんなことを言えない私は、小動物が威嚇するように肩をせり上げ怒ってみせた。
「分かったよ。でもひとつ条件がある」
「条件、ですか?」
なんで八木沢主任に、そんなこと言われないといけないの? それは私の颯なのに……。
でも手っ取り早く颯を返してもらうには、条件を飲んだほうが無難かもしれない。どうせ溜まっている仕事を手伝えとか、休日出勤しろくらいのことだろう。
もうこれ以上、八木沢主任や柴田さんといるのもしんどくなってきたし、ここはその“条件“とやらを受け入れようじゃない。