薫子さんと主任の恋愛事情
なんて。そんなドラマや漫画みたいな台詞を、兄貴に期待した私がバカだった。
諦めて大きな溜息をつくと、大登さんと繋がれている手に目線を落とす。
二股をかけられているのかもしれないのに、やっぱりこの手を離したくない。でもさっきの子供が本当に大登さんの子供だったら、そんなことも言っていられない。それに相手は、あの坂下さんだ。大登さんより歳は上だけど、それを感じさせない美しさと賢さを備えもっている。才色兼備と言うやつだ。私なんて敵いっこない。
大登さんの嘘も見抜けないような無知な私には、やっぱり二次元がお似合いだ。
「嘘つき」
ポロッとこぼれた幼稚な言葉に、自分自身が情けなくなる。
「だな。そのことも含め、話をさせてくれ。頼む」
大登さんに手を引かれるまま、黙って立体駐車場の中を歩く。しばらくすると大登さんの車が見え、そのそばには坂下さんと男の子が立っている。
「なんで……」
瞬間に身体が拒否反応を起こし、大登さんの手を握ったままクルッと踵を返した。
「やっぱり兄と帰ります」
大登さんが簡単に手を離してくれるとは思っていないけど、このまま坂下さんがいるところに行く勇気はない。