薫子さんと主任の恋愛事情

どうして大登さんは、いつもと変わらない顔をしていられるの? やっぱり慣れている大人の男は、恋愛ひとつで振り回されたりすることはないんだろうか。

それに比べて私といえば、二次元相手しか恋らしきものをしたことがないから、現実での新しい展開にはすぐに適応できない。

こんな時、今どきの若い子は、どういう反応をするんだろう。

繋がれている大登さんの手は温かくて、この手をずっと離したくないと思ったら、自分から大登さんの手を強く握りしめてしまった。

「わかってるよ」

大登さんの声に、手先にあった目線を上に上げる。

わかってる? 大登さんは、何がわかっていると言いたいんだろう。

私が小首を傾げると、私のことを見つめていた大登さんはニコリと笑ってみせた。

「すみません、お兄さん。薫子さんを、お借りします」

「え? はぁ、どうぞ」

この状況をわかっていないのは幸四郎も一緒で、大登さんの気迫に押されて曖昧に答えてしまう。

「幸四郎!」

どうして『どうぞ』なんて言っちゃうの? ここは兄貴ヅラして、『お前みたいな男に薫子は渡さない!』とか言うところじゃない?



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