薫子さんと主任の恋愛事情
「いません。もう、大登さん一筋です」
「そんなこと、わかってるよ。少しは気が紛れたか?」
「あ……」
ホントだ。さっきまで緊張でガチガチだった気持ちと身体から、すっかり力が抜けている。
「どうする?」
「え?」
「今日はこのまま、自分の家に帰るか?」
大登さんの口調はあくまでも優しく、強制を強いているわけではない。薫子の意思に任せるよと、言っているようだった。
正直、なんて答えればいいのかわからない。さすがに二次元でしか恋愛の経験がない私でも「帰りたくない」と言ったら、この後どうなるかがわかっているから。
「送っていく」
私がひとりでもたもたしていると、前をまっすぐ向いたまま大登さんがひと言。
イヤだ。このままサヨナラしたら、もう二度とふたりで会えなくなる。
そんなのイヤだ。
「ダメッ!!」
気づくと、運転中の大登さんの腕をおもいっきり掴んでいた。
「おぉ!! ビックリした。何?」
「帰りたく……ないです」
言ってしまった。
でもやっぱり帰りたくない。離れたくない。大登さんと一緒にいたい。
何故か必死の自分に、だったら最初から素直になればよかったのにと苦笑してしまう。