薫子さんと主任の恋愛事情
「ごめん、薫子。大人気なかったな」
いつの間にか繋がれていた右手に、ギュッと力が込められる。
「年甲斐もなく余裕なくして、お前を試すようなことをした」
大登さんでも余裕なくなることがあるんだと、ちょっと嬉しくなる。
社長たちからの人望も厚く、同僚や後輩、工場のパートさんたちからも信頼されている。仕事も抜け目はないし、何をやらせてもそつなくこなす。私から見ればスーパーマンみたいな人なのに、私のことなんかで余裕をなくすなんて。
少しは自分に自身を持ってもいい?
そんな気持ちが、大登さんの手を強く握ってしまった。
「大登さん、好き」
「知ってる」
大登さんが自信あり気にフッと笑う。その笑顔に、心の奥が満たされていく。
「よし、コンビニに寄って帰るか。アイスクリーム食うんだろ? 好きなだけ買ってやる」
「あ、あれは冗談で」
車内が一気に明るくなる。繋いだ手が温かい。
考えすぎるのは私の悪い癖。大登さんを信じて、ただ彼に身を任せておけばいい。
そう思うと肩の荷が下り、身体も軽くなっていった。