薫子さんと主任の恋愛事情

「エンゲージリング!?」

そう言われて棚の中を見ると、確かにそこはエンゲージリングがズラッと勢揃いしていた。

いくら私が少し前まで二次元どっぷり人間でも、エンゲージリングの意味は知っている。実は颯にプロポーズされたときに、もらったことがあって……。

「あっ……コホンッ」

「薫子、大丈夫か?」

「う、うん、大丈夫」


危ない危ない。昨日からの展開についていくのが精一杯で、つい妄想グセが出てしまう。
「薫子、どれがいい?」

驚き振り返って大登さんを見ると、今までで一番の笑顔を向けられる。

「どれがいいって、これ……」

エンゲージリングですよ? と言おうとしたのに、自分でもどうにもならない想いが溢れてきて、それが涙となって言葉をつまらせる。

生まれてこの方、父親以外の男性からプレゼントなんてもらったことがない。ましてや指輪なんて、二次元好きだった私は一生もらうことなかったかもしれないのに。

「なあ、何で泣くんだよ。薫子って、意外と泣き虫なのな」

「な、泣き虫に、させてるのは……大登……さんじゃ、ないですか」

途切れ途切れに抗議すると、大登さんは店員の前だと言うのに私を抱き寄せた。



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