薫子さんと主任の恋愛事情

「まあ泣くのは想定内だ。好きなだけ泣いていいぞ」

まるで赤子をあやすように肩を優しく撫でる大登さんに、「ヒドい」とひと言最後の抗議。しばらくして泣くのも落ち着くと、恨めしい目で大登さんを見上げた。

「なんだよ、その目は。そんな顔してると、これ、買ってやらないぞ」

脅迫とも取れる言葉にふくれっ面を見せていると、店員がニコニコしてジュエリーケースからひとつのリングを取り出した。

「好みもあると思いますが、こちらのエンゲージリングはどうですか? 可愛らしいお客様には、お似合いだと思います」

「可愛らしいなんて……」

私には似合わない言葉だ。恐縮して大登さんを見ると、「確かに可愛らしいな」なんてぬけぬけと言うから、どんな顔をしていいのか困ってしまう。

店員が目の前に出してくれたのは、花をモチーフにした可愛らしいリング。メインのダイヤモンドの横に、可憐なピンクダイヤモンドがそっと寄り添っている。私が可愛らしいは置いといて、このリングは本当に可愛らしい。



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