薫子さんと主任の恋愛事情
「そろそろ離してくれませんか?」
なるべくいつのも自分のように冷静を装う。でもそれが怒っているように見えたのか、八木沢主任が少しだけ動揺を見せた。
「いいか薫子、よく聞け。俺は酔った女を抱くほど、悪い男じゃないからな」
「はぁ?」
「指一本触れていない……ってこの状態じゃ、説得力がないな」
八木沢主任はアハハと笑ってみせると、私の身体から腕をほどいた。
と言っても同じベッドの布団の中で、身体が触れているのは変わらない。八木沢主任が上半身裸だったことを思い出し、ひとり身悶える。
「そ、そうですよ。八木沢主任、なんで裸なんですか?」
八木沢主任が意識のない私を、勝手に抱くような人だとは思っていない。今まで現実世界の男性と付き合ったことがないのだから、いわゆるそういう経験はないけれど。何もされていないことは、自分の身体のことだからわかる。
でもなんで裸なのかは、気になるところで。
「ああ、これな。癖っていうか、寝るときはいつもこの格好なんだよ。普段はパンツも履いてないぞ」
「パ、パンツも……」
男がゴロゴロいる家庭で育ったからパンツの中にあるものは見慣れていて、おもわず想像してしまい顔を押さえた。
よ、よかった。パンツ履いていてくれて……。
恥ずかしさから赤くなっているであろう顔を見られないように身体を反転させ背を向けると、ほっと息を吐く。