薫子さんと主任の恋愛事情
でもそれも束の間、ふと目線を上げれば時計は八時。
「八木沢主任、出社時間まで三十分しかないですよ!」
下着姿なのも忘れて飛び起きると、慌てて服をかき集める。
仕方ないけど、化粧は会社でするしかなさそうだ。と言っても、してもしなくてもさほど変わり映えしない顔だけど。
……そんなことより。
八木沢主任の家ってどこにあるの? ここはどこですか? 車を飛ばせば出社時間に間に合うのかしら?
頭の中はテンパッて、自分が何をすればいいのかアタフタしているというのに、八木沢主任ときたらいまだにベッドの上でのんびり私のことを眺めている。
「八木沢主任も支度しないと……」
「なあ薫子、今日は土曜日だぞ」
「……あぁ……」
そうでした。昨日はいろいろありすぎて、すっかり忘れていた。
しかも自分が服を着ていなかったことにも気づいてしまい、かき集めた服を抱きしめたまま身動きが取れなくなってしまう。
この状況、どうしたらいい?
そんな私の心の声が聞こえたのか、八木沢主任が肩肘をつき頭を支えながらもう片方の手で手招きをした。
「戻っていいぞ」
八木沢主任は布団をめくり上げると、早く来いと言わんばかりに自分の隣の場所をポンポンと叩いてみせる。
甘いマスクに甘い声。そのふたつに毒されてしまった私は小さく頷くと、黙ったまま八木沢主任の隣にすっぽり収まった。