これが私の王子様

「思い出す?」

 その言葉によって、先程の出来事が脳内で再生される。

 その瞬間、ゆかの顔はこれ以上赤くならないというほど紅潮し、湯気まで立ち昇る勢いがあった。

 更に、半分涙目になっている。

「……私なんかで、いいのでしょうか」

「婚約?」

「もっと、素敵な方が……」

「水沢さんが、いい人だよ」

 と言った瞬間、和人は照れてしまう。

 我ながら、何を言っているのか――と心の中で突っ込むが、事実そのように思っているのも確か。

 特にゆかの純粋で、欲のない部分が最高である。

「それに、料理も上手いし」

「料理は、趣味ですから」

「いや、料理は大事だ」

「結城君?」

 ゆかが料理を趣味にしているように、和人も食べることを趣味にしているといっていい。

 だから美味しい料理を作ってくれる人物の登場は嬉しく、婚約について不満を漏らすことはなかった。
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