これが私の王子様

 緊張感と羞恥心が薄らいできたのだろう、ゆかは和人の前で可愛らしい笑顔を見せるようになる。

 彼女の変化に和人は、亀のような歩みであるが、二人の間が進展しつつあることに気付く。

「結城君?」

「何?」

「ボーっとしていました」

「ああ、御免御免」

「疲れているのですか?」

「いや、そんなことはないよ。そうだ! 水沢さんが先に行って。一緒に戻ったら、関係が知られてしまう」

 この学校の女子生徒の凄まじさを知っているので、ゆかはコクコクと頷くと先に屋上から立ち去る。

 そしてある程度時間を置き、和人は教室へ戻って行く。

 幸い、和人とゆかが一緒にいたことに誰も気付いていない。

 それどころか、先程の「婚約」の話が続いている。

(この状況だと……)

 大々的に「婚約者は、水沢ゆか」と発表してしまえば楽だが、発表したらしたで彼女達が何を仕出かすかわかったものではない。

 諦めてくれればそれが一番だが、いかんせん相手は執念深い――というか、執着心が半端ない。

 だからこそ、その時まで黙っておかないといけない。
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