LB4

この今までに感じたことのないドキドキは何だろう。

大悟くんに焦がれるときのドキドキは、精神的に大きな快感を与えてくれるものだった。

甘いひとときを夢見て、毎日のように想像を巡らせ、胸をキュンキュンときめかせて熱い吐息を漏らす。

暇さえあればいつまでも彼への思いに浸ることができた。

ところが今は、だ。

五臓六腑を捻り上げられるような強い刺激を伴い、息苦しいほどに動悸がする。

いつまでもこの感覚に溺れているのは辛い。

いっそのこと自分から彼に腕を伸ばし、楽になってしまいたい。

何これ。

これがいわゆる性欲?

そんなの、あたしが田中を好きみたいじゃん。

求めてるみたいじゃん。

そんなの、こいつの策に簡単にハマったみたいで悔しい。

チョロい女になどなってたまるかという自尊心。

それだけが、目覚め始めた己の本能の暴走を食い止めている。

「あたしまだ付き合うなんて言ってないから」

忍び声なりにハッキリ言い放つ。

しかし田中は嬉しそうに笑い、

「まだ、ね」

と言って左端の席へと戻っていってしまった。

自分が無意識に、

「今はダメだけど、いずれ心の準備ができたらOKするよ」

という表現をしてしまったことに気が付いたのは、それからしばらく後のこと。

そして、心の準備ができたのは、更に一月経ってからだった。




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