T&Y in神戸



部屋へ案内するというフロントのサービスを断り、ソファに独り待つ由香利の元に足早に歩を進める。
わずか数分離れただけでーーー由香利の瞳は不安でいっぱいだ。

由香利との未来が分かっていたら……あんな事はしなかった。

「ーーー行こう。」
「……。」
差し出した手に、おずおずと乗せる手がすっかり冷たくなっていた。
揺れる黒目がちな瞳が痛々しい。
ぎゅっと手を握ると、泣きそうな顔をする。
「……。」
かける言葉が見つからない……いい大人の自分が情けなくなる。

キャリーバックと由香利の手を引いてエレベーターに乗ると、夜も遅い時間。
俺たち以外、利用する人は誰もいなかった。
「……。」
由香利をチラリと盗み見れば、長い髪が俯く横顔を隠して表情を伺うことも出来ない。
「……由香利。」
指を絡めて繋ぎ直すと、由香利は泣きそうな顔を上げた。
どんなことを想像しているのかーーー想像しただけでため息が漏れる。
「ーーー繋いだことなんてない。」
「!?」
的を得た一言だったのか、由香利の目が大きく見開かれた。
「お前以外の女の手を、繋いだことはない。」
「たあちゃん…」
泣きそうな由香利。
「お前だけだから。
こうして、繋いでいたいと思うのもお前だけだ。」
しっかりと目を見て伝える。
「……ほんとに、私で、」
「お前じゃなきゃ、駄目なんだ。」

嵐の中を漂うような不安定な由香利の心が、この関係にいつか、疲れきってしまうのではと不安で堪らなくなる。






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