愛なんてない
約束



その人は、淡い紅色の中にいた。


花盛りの桜のもとで、花吹雪を浴びながら。


親を亡くしたばかりのわたしの目に、涙でぼやける輪郭。


白く濁る世界、その果てに自分はいる心許ない気持ちでいた。


両親を一度に亡くしてしまったわたしは、現実を認めたくなくて家から逃げ出した。


死を目にした幼いわたしは恐怖感が先立ち、ただ逃げたくて堪らなくなったのだ。


わたしがもう少し成長していれば、まだ理解も出来たのかもしれない。


けれども、まだ5歳というわたしの年齢では、人の死を受け入れるには幼すぎて。


死という未知の出来事に怯えたわたしは、ただひたすらに逃げて。


そして。


たどり着いたのは、両親とよく来ていた河川敷。

そこには樹齢が何年かわからない大きな桜の木がそびえ立っていた。



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