愛なんてない
終幕~愛はすぐそこに
「弥生、行ってくるな」
俺は毎朝の習慣である口づけを弥生と交わす。
たとえその瞳が俺を映さずとも。
たとえその唇が俺を呼ばすとも。
そして、看護師の佐々木さんに弥生を任せてアパートを出る。
離れるときはいつも身を切られる思いをするが、それでも。
俺は、弥生が生きてるだけでいいと。
その幸運と幸せに感謝していた。
肌をさす寒さもゆるみ一雨ごとに春の気配が高まる季節。
あの河川敷の彼岸桜が花開くのももうすぐか。
今年も連れていってやるか。
淡くなりだす春の気配を感じながら、俺は足を踏み出した。