愛なんてない
エピローグ
「お父さん。ここ? 2人が約束した場所って」
「ああ、そうだよ明日香(あすか)」
お父さんはあたしに視線でその桜の木を示したあと、傍らの車椅子のお母さんに微笑みかけた。
季節は冬から春へ。あたしの大好きな4月はもうすぐそこに来てる。
「早いな、明日香ももう高校生か」
お父さんのつぶやきに、2人の歩んできた道が平坦でない。それくらいあたしにも解る。
お母さんは高校2年生の時、事故で意識を失って十年間も眠り続けた。
そんなお母さんを支えたのがお父さんの大きな愛だって。お母さんは懐かしそうに教えてくれた。
今あたしたち家族が来たのは、河川敷にある公園。
お母さんが子どもの頃はまだ荒れ地だったみたいだけど、今はテニスコートなんかもあってそれなりに賑わってる。
その真ん中には彼岸桜があって、一般的な染井吉野より濃いピンク色の花を一足お先に咲かせる。
お母さんはこの彼岸桜の下、5歳でお父さんと再会の約束をした、って。
そして高校に入って先生と生徒という関係で再会したんだ。
なかなかロマンチックだけど、あいにくとあたしにはそんな運命的な出会いはなかった。