愛なんてない



お母さんに見せようと、ハンカチに落ちたさくらの花を載せたのだけど。




突然に強い風が吹き、ザアッと薄ピンクの花びらを散らした。



「あっ!」



ハンカチが風に飛ばされ、息も苦しくなり舞い上がる髪を押さえつけた。




花びらが白く見えるほど舞う中で。




トクンと心臓が跳ねた。



さくら色の雲の中で、光に満ちたひと――。





あたしはまばたきを繰り返した。




ひらりと舞い上がったハンカチを手に取り、グレーのスーツを着たその人は温かな笑みをくれた。




「これ、君のかな?」




「あ……はい」




あたしは慌ててその人に手を伸ばし、躊躇いながらハンカチを手にした。




そして。





その人と目があった瞬間。





ざあっとまた桜がしなった。






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