愛なんてない



まだ眠るお兄ちゃんの耳をつまみ、わたしは思いっきり息を吸い込んだ。


「圭介!いい加減に起きなさい!!」


「わあっ、咲子ごめん! 今すぐ起きるからっ!!」


効果てきめん。


婚約者の声音を真似ただけでお兄ちゃんはすぐに飛び起きた。


クスクス笑うわたしを見たお兄ちゃんは「こら、なにするんだよ」とわたしを小突くけど。


なんだかそれが寂しい。


「明日から咲子さんと暮らすなら、ちゃんと自分で起きなよ」


「ま、努力するよ」


そう言いながら、お兄ちゃんもちょっと寂しげに見えた。


「さ、朝ご飯ちゃんと食べちゃってよ! 片付かないからね」


寂しい、なんて言えずにわたしはわざと背を向けて勢いよく階段を降りた。


明日、お兄ちゃんは結婚する。


正確には入籍だけして披露宴の代わりに親しい人だけ招くパーティーを開くのだ。


それもこれもみんなわたしに配慮してくれたのだ、とわかる。


咲子さんがこの家に来てくれるのだって、わたしのためなんだ。


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