愛なんてない



眼鏡を外した相良先生の端正な顔だちがぼやけて見えたのは、涙のせいなんかじゃない。


自分に一生懸命そう言い聞かせた。


「弥生……」


甘く囁いた相良先生の声があまりに優しく愛しげに響いたから、わたしは嬉しげに微笑んでみせた。


ただの恋人ごっこ。


ほんの数十分の刹那。


わたしの笑顔を見た相良先生は、動きを再開させた。


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