小説家
『少年Pの冒険新書』
―――昔、Pという少年が母親と二人で暮らしていた。彼の父親は星が好きだった。夜空に瞬く綺麗な星が。
――手に入らない星――
父はずっとそれを探しに行くのが夢なのだといつも話していた。
いつしかPも父親と同じ様に星が大好きになっていた。彼は暇さえあれば星の事について調べて、夜になるといつも星を観察してばかりいた。『お前、星ばっか見ててつまんねぇよな』。友達なんかいらないと、そう思っていた。そんなある日いつもと同じ様に星を見ていた彼に父親は話をした。その昔から語り継がれているお話。
――いいかい?この国にはねお金じゃ手に入らない物があるんだ。
――お金で、買えないもの…?
――あぁ、そうだ。お金に変えられないほど、大切な物だ。
――そんなものがあるの?物はお金で買うものなのに?
――物体的な何かじゃない。目には見えないけど確かに大切なものだ。
――目には見えないけど、大切なの?
――あぁ。
――うーん…。良く分からないや。
――ハッハッハ。いつかお前にもわかる時が来るさ。
――いつ?
――そうだな…お前がもう少し、大人になったら、だな。
暫くして少年の父親は突然姿を消してしまう。少年は泣きじゃくりながら母親に聞いた。
――パパは…!!パパはどこお…!!?
――泣かないで、P。パパはね、星を探しに行ったのよ。
――星…?星って…。
――手に入らない星。パパはその星を探しに少し旅に出たのよ。
――グスッ…パパは…帰ってくるの…?
母は一瞬戸惑う。
――大丈夫よ。いつかきっと、ううん、絶対帰ってくるわ。だから、一緒に待ってましょう?
母親は自分に言い聞かせるように言う。
―――…うん。僕、待ってるよ。
――良い子ね…。
母親は初めて息子に嘘をついた。
少年の父親はもう、2度と、帰って来ないと知っていた。
彼の父親は星を探しに行ったのではない。
本当は、国を守るために、戦争に行かされたのだ。
そうして毎日を過ごして行ったある日、少年の母親は重い病気にかかり、一週間と立たないうちにこの世を去ってしまった。ほんの、一瞬の出来事だった。いつものように星を眺めに外から帰ってきた時だった。血を吐いて倒れている母親。慌てて近くの医者を呼びに行った。が、彼女は助からないと言われた。
とうとう彼は、少年は一人になってしまう―――