小説家
「…おい。」
襖から先生が声を掛ける。
「へ、あ、はい?」
「いつまでそこで突っ立ってるつもりだ。」
あ、ボーッとしちゃってた。
私はまだ靴を履いたまま玄関に立っていた。
「すいません、色々と思い出してて…」
「…どうでもいいが、お茶、いれろ。」
もうこの命令口調もだいぶ慣れた方だ…
一週間でここまで慣れるとは私は忍耐があるかもしれない。うむ。
「すぐ用意します。」
そういうとまた直ぐに奥に引っ込んでいった。
あんなに綺麗な物語をあの先生が書いたとは到底思えない…
何であんなにぶっきら棒で無口で、たまに口を開いたと思ったら文句しか言わないような人に書けるのか…
おっと、我ながら今のは失礼すぎる。
でも私は先生の小説が好きだ。
その事実は変わらない。
「…お邪魔しますっ。」
そういって中に入り、急ぎ足で台所へ向かった。