可愛げのないあたしと、キスフレンドなあいつ。

「とにかくパワフルな人でね。手を抜くことが大嫌いで、メイド服も昔お姉さんが学校の文化祭で着た、自作の衣装なんだって」

「……マジで?」

「うん。アンティークっぽい加工したボタンとかレースとか、すごい細部まで凝った作りだったよ。ひと夏のバイト代、全額注ぎ込んでつくたって言ってた。俺ら近所の男子はさ、小学生の頃罰ゲームで負けたヤツに着せるのに借りたりしたんだ」

「ふぅん。前から七瀬くんたちって、そういうことばっかしてたんだ?ほんと、くだらないゲーム好きだよね」



あたしが笑いながら言うと。七瀬はわずかに顔を緊張させて顔を上げた。
長い長い、くだらない前置きはもう終わりだ。





----------話の風向きが変わる。





それを確信して、自然とアイスティーのカップを持っていた指に力を込める。

どんな風が七瀬から吹いてこようと平然としていられるように。ゆっくり静かに息を吐く。

そんなあたしの緊張を感じ取ってか、七瀬はいっそう表情を引き締めて聞いてきた。




「崎谷さん。『水原愛』て名前、聞き覚えない?」


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