可愛げのないあたしと、キスフレンドなあいつ。

「……俺と渚ね、実は愛さんに『一度でいいからうちの文化祭見に来い』って言われて、中1のとき、無理やり成星院の中等部の文化祭に連れて行かれたんだ」



七瀬が言うには、渚のお姉さんはとにかく自分の母校を愛している人だったから、高校受験で成星院を受けてみたら?と2人を熱心に口説いていたそうだ。

その勧誘の一環で、渚や七瀬を『星流祭』に呼んだらしい。




「テレビで見たことあって『星流祭』のことは知っていたけど。模擬店とか展示とかダンスの発表とか。どれも高校とか大学レベルの文化祭ですごい圧倒されたよ。でも。中でも英語劇の『オズの魔法使い』はほんとに。……ほんとにすごかった………」



それは七瀬にとってあまりにも鮮やかな記憶なのか。
たった今観劇を終えたばかりのように、七瀬は感嘆の言葉をもらした。




「スクリーンの影絵を使った演出とか、前後左右の4方向から聞こえてくる音響もすごかったけど。………なにより主役のドロシー役の子の存在感が、抜群にすごかった」



七瀬はいつもの七瀬らしくもなく、熱っぽい口調のまま続ける。



「離れた場所から見てても目を惹き付けられるくらい、すごくきれいな子だったんだ。英語の発音流暢すぎて俺にはネイティブにしか聞こえなかったし、よく通る声も表情も思わず見入っちゃうくらい活き活きしてて。でも台詞間違えちゃったときの照れた表情がすごいおちゃめで愛嬌たっぷりで。………観客はみんなその子に釘付けだった。………劇なんか全然興味ないのに、愛さんに無理やり連れてこられて嫌々見ていたはずの渚もね」




自然と、膝の上で固く拳を握り締めていた。




七瀬が言うのは、あたしがいちばん調子こいてた頃の話。

あたしのピークだった頃を、それも絶頂だったときを、渚に知られてたんだ。


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