可愛げのないあたしと、キスフレンドなあいつ。

凋落


【凋落】



成星院学園に入学したての一学期の頃。

同じグループになった子たちから推薦されて、あたしは2クラス合同で行うことになった劇の主役に抜擢された。


正直はじめは劇とかお芝居とか未経験で全然興味もなかったし照れ臭かったけど。成星院学園の『星流祭』には、そんなためらいを吹っ飛ばすくらいの活気があった。

あのときは文化祭の準備を進めていくうちに、みんなの熱気や勢いに飲み込まれていくのがたのしかった。
ただたのしくてしょうがなかった。





放課後はセミプロの劇団員をしている成星院の卒業生を演技指導の講師に招いて、ずっと劇の練習にかかりっきりになった。

台詞回しや表現力を学ぶために何度も大学の演劇部にも通ったし、劇は生声でやるから、大学生に混じって徹底的に発声法の訓練もしてもらって、体づくりのために運動部ばりにストレッチや走り込みもした。

台詞はみんな英語だから、昼休みはESS部の顧問の先生に指導してもらい、帰宅後はババアがコネをフル活用して連れてきたイギリス人の家庭教師からも発音を叩き込まれた。



正直あたし程度の頭じゃ、成星院では授業についていくのも結構いっぱいいっぱいだったから、放課後ほとんどの時間を勉強ではなく劇の練習に割かなくてはいけなくなったのはかなりキツかった。

予習復習を一度でも怠れば成績を維持することなんて出来なくなると分かりきっていたから、どんなにクタクタになって帰ってきても睡眠時間を削って深夜まで勉強せざるをえなかった。


今でもなんであんなに必死に頑張れたんだろうって不思議に思えるくらい、毎日が大変だった。



でも憧れの学校での充実した毎日は、きらきら輝いて見えた。
しんどいと思えるくらい打ち込めるものがあることが、しあわせだと本気で思えていた。





でもそれもほんの一瞬のことだった。


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