可愛げのないあたしと、キスフレンドなあいつ。
渚の家
【渚の家】
「着いたぞ」
手を引かれて歩いてたどり着いたのは、どう見てもラブホなんかじゃなかった。手入れの行き届いたきれいな生垣に囲まれた、情緒のある古びた印象の一軒家。『水原』って彫られた立派な表札が掛かっている。
「………え?」
あたしが驚いて声を上げると、隣で渚がにやりと笑った。渚はあたしと手を繋いだまま、その家の玄関の引き戸をガラガラいわせながら開いた。
「帰ったから」
渚が家の中に向かってそういうと、すぐに賑やかな声が返ってくる。
「お、渚帰ってきたッ。間に合ってよかったね、今夜は唐揚げの争奪戦だぜぃ!」
「ちびの頃みたいに泣き落としで譲ったりしねぇからな。さっさと手ぇ洗って来いよー」
部屋から玄関にちらっと顔を覗かせてきたのは、学ラン姿の背の小さな男の子と、その子とは対照的に背が高くてやたらとがっしりした筋肉質の男の人。
前に渚は4人姉弟だって言ってたから、たぶん渚の弟さんとお兄さんだと思う。
「荒野、哉人。なあ、親父は?」
渚はお兄さんらしき人をコウヤ、弟くんらしき子をカナトって呼んだ。渚の問いに、弟くんが答える。
「あーえっとね、今日は、商店街の会合でまた飲んでくるんだって。やったね、とーちゃんの分、唐揚げの取り分増えるよ!」
「ったく、あのアル中また飲みかよ」
「今日は『みよし』だってー。迎えにいくの渚の番だからねー!せいぜいおねえさまたちに可愛がられてこいよーん」
「ざけんな、なにがお姉様だ。ババアだろ、あそこのスナックいるのは」
渚がそう暴言を吐くと、廊下に荒野って呼ばれたお兄さんが飛び出してくる。