これが恋というものかしら?~眼鏡課長と甘い恋~【完】
「そうだったんですか……」

「あなたも私が弁護士じゃなくてがっかりですか?」

少し意地悪な質問をしてみる。

「……どうしてですか?」

話すべきかどうか逡巡する。

過去の自分について彼女が聞けばどう思うだろうか……。

「あの、質問に質問で返してすみませんでした。私は、高浜さんが今の秘書の仕事を誇りに思っているように感じます。自分で選らんだ道を自分の足であるける強さを“がっかり”だなんて思うはずありません」

彼女はどうしてこうなんだろう。

俺の琴線にふれるような事ばかりを言う。俺は彼女の目を見て話を始めた。

「私が弁護士になることを望んでいたのは、両親だけではありませんでした。当時お付き合いしていた女性も同じ考えだったのです」

二宮さんが一瞬目を見開いたのがわかる。あまりにもわかりやすい反応に思わず笑いそうになった。

「彼女は最初は戸惑いながらも、私の選択を応援してくれていました。いや、そのように見えていただけですね。あるとき彼女が他の方と話をしているのを聞いたのです。『弁護士と結婚したかった』と」

「そんな……」

「たしかに弁護士を目指さないことによって、彼女の思い描く未来に暗雲がたちこめたのかもしれません。彼女の未来に必要だったのは“私”そのものではなく“弁護士の私”だったのですから」

ふぅっと大きな息を吐いた。

彼女はまるで自分の話でもされているかのように、悲しそうな顔をしていた。
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