これが恋というものかしら?~眼鏡課長と甘い恋~【完】
「あなたがそんな顔をする必要はありません。その彼女は私とすぐに別れて別の弁護士の男性と結婚しましたから。私と同時にお付き合いされていたようです。彼女の嘘に全く気が付かなかった私はやはり弁護士になる資格はなかったのだと今になっては思いますけど」

ぬるくなった缶ビールを煽る。

遠くから花火を終えて帰る人たちの声が聞こえてきた。

「……今は、後悔されてないんですよね」

彼女は両手でチューハイの入った缶を握り締めていた。

「高浜さんは、今の自分が好きなんですよね?」

突然顔をあげた彼女は真剣な表情で俺をみていた。

「……そうですね、嫌いではないです。あのとき自分の気持ちを押し殺して弁護士になっていたら、嫌いになっていたかもしれません」

「そうですか……自分に嘘をつくのはつらいことです」

彼女は唇をかみしめていた。

「そうですね。だから私は自分にも他人にも嘘はつきません。必ず誰かを傷つけますから……」

「誰かを傷つける……」

ポツリと彼女が呟く。それきり一転をみつめて動かなくなった。

「……どうかしましたか?」

「あ、……なんでもありません。そうですね。嘘はダメですね」

笑顔だったが表情もかたく顔色が悪いように見える。

「大丈夫ですか? 顔色が……。つまらない話をしてしまいましたね」

「あの、大丈夫です。お酒に酔ってしまったみたいです。そろそろ帰りましょうか」

 昔の女の話なんて聞きたくなかっただろうか……。話をしたことを後悔しはじめた。

 彼女がその場に立ったのに合わせて俺も立ち上がる。
< 116 / 228 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop