これが恋というものかしら?~眼鏡課長と甘い恋~【完】
 先に歩き始めたが、彼女のついてくる気配がしない。

 振り向いてみると、そこで顔を伏せて立ち止まったままだ。

「……二宮さん?」

 といかけてみるが顔をあげない。

 しかし、ゆっくりと彼女の左手が俺に差し出された。

「あの、手を……」

 おそらく男女のこういったことに長けてはいない彼女が、俺に手を差し出してきた。

 その意味くらいは、俺にだってわかる。

 ここに来るまで、ずっと手をつないでいた。

 だから何も意識することなどないのに、なぜだか彼女の手を握ろうと伸ばした手が戸惑ってしまう。

 彼女の柔らかな手に指先がふれると、ビクッと動いた。それを俺は握り締め手を引く。

 彼女は何も言わずに、歩き始めた。

 いつしか花火大会帰りの人々の中に俺たちも埋もれた。

 お互い言葉を交わすことなく、しかしつないだ手はどうしようもなく心地よかった。
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