これが恋というものかしら?~眼鏡課長と甘い恋~【完】
 翌日――。

 いつもの通りに出社して、いつもの通りの業務をこなす。

 ただ、いつもよりも多いため息に宗治が顔をしかめていた。

「辛気臭い」

 不機嫌な顔で言い放たれてもどうしようもなかった。

 他の相手ならともかく、四六時中顔をあわせている宗治に隠せるほど俺は器用ではない。

 またもやため息をつきそうになり、慌ててそれを飲み込む。

「ご不快でしたか、すみません」

 自覚があるので素直にあやまると「気持ち悪い」と返された。じゃあ一体どうしろっていうんだ。

 鉄仮面のごとく秘書の顔を張り付けて、もくもくと仕事をこなしていた。

 いつものポジション――宗治の右斜め後ろを、奴の速さに合わせて歩く。いつもならこの隙間時間にも今後の予定の流れなどを組み立てながら歩くのだが、今日はただ宗治の背中を見ながら歩いている。

 するとエントランスで宗治の歩く速度がゆっくりになる。俺もそれに合わせて速度を緩め、その原因を探ろうと前方を確認した。

 そこには、今までみたこともないような真剣な表情で、立ちはだかる恵の姿があった。

「どうかした?」

 いつもの調子で宗治が話しかける。しかし彼女の視線はまっすぐに後ろにいる俺に向けれられていた。

 その様子から宗治も何かを感じ取ったのか、俺の方を振り向いた。
< 169 / 228 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop