これが恋というものかしら?~眼鏡課長と甘い恋~【完】
「お前真剣だったんだろ? ずっと誰にも見せなかった顔、彼女にみせたんだろ? だったら何で諦めるんだよ」

 宗治の唇が切れて、血がにじんでいる。

「すまない。宗治」

 突き刺さるような宗治の言葉に我に返る

「正直大変だと思う。お前も知ってると思うけど企業家や政治家のつながりやしがらみが、どれだけ大変なのか。でもそれよりも大変なのは、本当の自分をさらけ出せる相手と、出会うことじゃないのか?」

 “本当の自分をさらけ出せる相手”

 俺にとっての恵という存在はそうだった。どこか人を信用できないままこの歳まで過ごしてきたが、恵と出会って自分をさらけ出せるようになっていた。

 じゃあ恵にとっては……?

「彼女にとっても、お前がそういう相手じゃなかったのか? 少なくとも俺にはそう見えたけどな。彼女は本当の自分を押し殺してこれから何十年も生きて行くことになるんだ」

「彼女が選んだ道だ」

「本当にそうなのか? お前ちゃんと彼女の口から聞いたのか?」

 そんなこと、ふがいない俺がができるわけない。

 結果、彼女を傷つけることで俺から離れるように仕向けた。しかし……

 そこに彼女の意思はあったのだろうか……。

 俺は彼女が“こうあるべき”という姿を押しつけただけではないのか。それでは、綾上の家族と同じではないか。

 結局彼女が何を望んでいたのか、俺はそれを一度も聞いていない。

 唇の血を拭いながら、宗治が立ちあがる。
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