スイートな御曹司と愛されルームシェア
 咲良は照れくささのあまり身をよじりそうになるのを、グラスが搔いた汗を指先で拭ってごまかした。

「だからこそ、咲良さんにはほかの誰よりも早く報告しようと思ったんだ」
「へ?」

 話題の方向性が急に変わったことに驚いて、咲良は顔を上げた。恭平と果穂が照れたような笑みを浮かべながら、視線を交わしている。

(何、この雰囲気)

 空気が読めないとよく妹に言われる咲良でさえ、二人の様子からただならぬものを感じた。恭平が咲良に視線を向ける。

「実は僕と朝倉さん、結婚しようと思ってるんだ」
「け……結婚?」
「そうなんだ。五ヵ月ほど前に付き合い始めてね……」

 恭平がはにかみながら後頭部を搔いた。彼の言葉を聞いて、咲良は横面をはたかれたように頭がクラクラするのを感じた。

「ご、五ヵ月前?」
「そうなんだ」
「で、でも、付き合って五ヵ月で結婚を決めるなんて、早くない? 何もそんなに急がなくても……」

(だって、私、まだ恭平くんに気持ちを伝えてない! 私の方がずっと長くそばにいたし、ずっと長く好きだったもん!)

 納得のいかない気持ちがつい口調に出てしまった。恭平は落ち着かなさそうにメガネのフレームを持ち上げて、果穂を見た。果穂が頬を染めてうつむく。さっきは愛らしいと思ったその表情が、今はなぜか憎たらしい。

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