スイートな御曹司と愛されルームシェア
「こういうときはセリフに注目するといいわね」

 そう言いながらテキストを返そうとした咲良は、表紙に乾いた土がついているのに気づいた。

「あれ?」

 汚れを指先で払うと、優弥がバツが悪そうな表情で後頭部を搔く。

「あー、野球の練習の後で宿題をやったから、泥がついちゃったんだ。お母さんがキレイに拭いてくれたと思ったんだけどなっ」
「へー、優弥くん、野球やってるんだ」
「うん、大阪フェニックスってチームなんだよ」
「カッコイイ名前だね」
「うん。でね、今度の土曜日に練習試合があるんだ。先生、見に来てよ!」
「どうしようかな。先生、朝早いのは苦手なんだけどな」
「えー、来てよー。九時からだよ。起きられるでしょ? 東グラウンドであるんだ。コーチにすっごく優しくてカッコイイ人がいるんだよぉ!」
「それはぜひ見に行かないと」

 咲良が冗談めかして笑うと、優弥が胸を張って言う。

「うん、コーチ目当てで応援に来る人もいるくらいだって、うちのお母さんが言ってた」
「じゃあ、佐和子(さわこ)先生がいいって言ってくれたら行くね」

 咲良はそう言って優弥にテキストを返した。
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