今宵、桜の木の下で

気を使ってくれているのは、わかってる。

ただ、―――。

どう向き合えばいいのか、わからないだけ。


「……はあ…」


これ見よがしに溜め息を吐き、テレビでも見ようかなとリモコンに手を伸ばす。


その先に何かが揺れて、――


「え、――!!」


電源の入っていないテレビのすぐ横に、さっき八幡さまで会った男の子が立っていた。


「ひっ!!!」


何で、―――??

何であの子がここにいるの、――??


『ね、おねえちゃん』


――――――!!


『おねえちゃんてさ、ぼくがみえるんだよね?』


……はあ??


『おねえちゃんてば』


え、これ、―― 私に話しかけてるんだよね??


「……きみ、誰?」

『ぼくはイクラ』

「イクラ、―――??っていうか、何でここにいるの?」

『わあ、―――』


突然大きな声を上げるとトコトコと私の前まで歩いてくる。


『やったね』


くるっとした丸い瞳がキラキラと輝いて、ものすごく嬉しそうだ。


「ああ、もしかして佳奈子さんの知り合い……とか?」


あの雨の中、先に来てたのかな、なんて。

きょろきょろとあたりを見渡しても、私とイクラ以外リビングには誰もいない。


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