ニュートンの誤算
 「う、うん。こういうのってテレビよりも面白いって言うし。
  ・・・次貸そっか?」
 
 慣れない人との会話だと、何だかぎこちなくなってしまう。だけど鈴村くんは嬉しそうに笑った。左の頬にエクボができて、とても可愛かった。
 
 「え、いいの? ありがとう」
 
 「うん! 遅くても明後日なら大丈夫だから」
 
 できるだけ自然に笑い返したけれど、顔が引きつってる感じがする。それに、バスの時間も押していた。床に散乱する紙を回収して、席を立った。

 「あ、じゃあね。ちょっとバスの時間が・・・」

 「うん、ありがとう」

 鈴村くんはまだ残るらしく、その場所で手を振ってくれた。少し照れくさい気もしたいけれど、私もはた目にわかる程度に手を揺らした。

 

 顔が上気して真っ赤なのに気付いたのは、バス停でミラーに移った自分をふと見たときだった。


どうしてだろう。男子になんて興味無かったのに。顔がすっごく熱い。

 鈴村くん、鈴村 慧(ケイ)くんは、少し地味めの男子。といっても装飾係の中ではトップレベルの陰じゃなさ。友達もそれなりにいるし、成績も学年で両の指に入るほどだ。
 といってもほかの男子達みたいな馬鹿な事はやってなくて、たぶん丁度良い感じで溶け込んでいるのだと思う。
 それに背は150センチ程と小さめで(私のほうが小さいが)顔も目が大きくて笑うと本当に可愛い。喋る事は少ないようだけれど、だから他のクラスや先輩の女子には人気がある。
 
 あれ・・・?
 「興味が無い」とか言いながらそんな事を考えている自分に、かなり慌てる。バスの中が空いていて良かった。また顔が赤くなっていたから。
< 2 / 2 >

ひとこと感想を投票しよう!

あなたはこの作品を・・・

と評価しました。
すべての感想数:0

この作品の感想を3つまで選択できます。

この作家の他の作品

公開作品はありません

この作品を見ている人にオススメ

読み込み中…

この作品をシェア

pagetop