ニュートンの誤算
林檎落下  -キッカケ-
 「はい、じゃあ今日はここまで。残りたい人は残って。次回は明後日だから、それまでに今日のノルマを終わらせてくるように!!」
 
 校内装飾係担当の北原先生が手を叩いて、みんなはのろのろと片付けを始める。
 「気を付けて帰りなさいよ」と先生の出て行った美術室の扉には、赤いマーカでやたら長く『私立坂上学園中等部文化祭まであと41日!!!』。


 しかしここは覇気が無い。
 
 私たち校内装飾係は、その名の通り文化祭で教室や廊下に飾りつけをするという一番地味な係だ。元気のある子はクラス発表なんかの派手なところへ流れていってしまう。
 
 それを計算に入れても何なのだ、この陰キャラ集団は。
 
 いくらここが中堅の私立中だからと言って、結構みんな普通の感じだ。女子は噂話に花を咲かせるし、男子はバカみたいに教室で走り回っている。
 
 なのにこの中の大部分は前例の中で浮いている少年少女だ。顔を見ただけでも「あ、この仔陰キャラ~」てな感じのメンバー。
  
 と言って、教室内カースト制度下層(最下層ではない。何とか)『やや陰より』の私が言う事でもないか。
 
 
 そんな私の手もとには、黒い画用紙のコウモリが散らばっている。今年のテーマは『ハロウィン』で、私たちは廊下の壁いちめんに飾りつけるそれを作っていた。
 今日のノルマはコウモリとカボチャを大小会わせて20個ずつ。あと半分近く残っている。
 この仕事、結構目が疲れるし根気が要る。
 
 疲れとウンザリ感で溜め息をついた矢先、同じクラスの鈴村くんに声をかけられた。
 
 「あれ、もうその図書室に入ったんだ?」
 
 その指の先には、私のカバンから覗いた本。去年連続ドラマでもやっていた『探偵ガリレオ』だ。結構前に刊行されていたけれど、ここに入ってきたのは最近らしい。今日図書室で見つけたので、早速借りてみた。
 
 驚いた。向こうから話しかけてくるなんて。女子と話しているところを見たことが無かったから、たぶん係として以外関わらないだろうなと思っていた。
 
< 1 / 2 >

この作品をシェア

pagetop