姫恋華〜ひめれんげ〜【改稿版】

(5)事後報告

 ゆらの母 志乃は行方知れずのままだった。

 皆で手分けをして探しても屋敷の中にはいなかった。

 おしずを助け喜んだのも束の間のこの事実に、ゆらは肩を落とした。

 彼女の憔悴ぶりは激しく、宗明も新之助も痛ましそうに顔を曇らせ、さすがの鈴も軽口を封印。

 佐伯の屋敷を出て、新之助が別れを告げた時にもその顔に笑顔はなかった。

 宗明と鈴だけになり城へと足を向けたところで「鈴ちゃん。かあさまがいなくなる前、かあさまの部屋がおかしいって言ったよね。そのせいなのかな」と抱いて歩く鈴に問うた。

 今にも泣きそうな顔に、鈴は明るい日差しの下で瞳孔を大きくした。

「嵯峨さん、何も言わなかったね」

「せやな……」

 そう言えば、そうだ。と鈴も首を傾げた。

 ゆらの母親の事を知らないはずはないのに、嵯峨は一言も言わず帰ってしまった。

「なんやろなあ」

 妖(あやかし)とは関係ない事件なのか。

「うち、旦さんに聞いて来ようか」

「ともかく、政光さまのお部屋に参りましょう。あの陰陽師でも分からぬこともあるでしょう」

 そんな宗明の言葉に、ゆらは力なく頷いた。

「旦さんに分からんことがあるかいな」と鈴は道中文句を言っていたけれど、今のゆらにはそれに応える元気すらなかった。




「ご苦労だったね」

 すでに報告を受けていたものか、政光は何も聞かぬ間にそう切り出した。

 ゆらは膝に鈴を乗せ俯いたままだった。

 その後ろに宗明が控え、政光の隣には水戸のおじいさまが控えている。

「志乃の方のことだね」

 異母妹の消沈ぶりに政光は眉をひそめた。

「聞いたよ。屋敷にはおられなかったそうだね。いったい、どういうことなのか……」

 政光は水戸のおじいさまに顔を向けた。

「何か感じますか」

「……おそらくは妖の仕業でしょうが、嵯峨から何も申してきませんので何とも申せませんな」

「うん、そうか……。ともかく、こちらでも捜索をさせているから、ゆらは部屋に戻って少しお休み」

「わたしも探します!」

「ああ、探そう。でも、その前にお前が倒れてしまったらどうしようもない。休んで起きたら、また宗明とお行き」

「……はい」

 確かに疲れすぎていると思う。

 母の事で嫌なことばかり考えてしまうのも疲労困憊だからだ。

 ゆらはここは素直に兄の言葉に従うことにした。

「何か分かれば、すぐに知らせるからね」

 そして、そんな優しい言葉を背に受け退出した。



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