もっと★愛を欲しがる優しい獣

通話を終えると、改めて傘を握りしめる。

駅前の大通りには私と同様、隣の駅まで行こうとする強者たちが傘を並べて歩いていた。

隣の駅まで行けば地下鉄が通っている。普通に帰るよりは確かに遠回りになるけれど、運休になっていないだけありがたい。

(さて、歩こうかしら)

雨は勢いを増しているけれど、帰らないわけにはいかない。

こんな時は気楽な一人暮らしだったら良かったのにと思う。

意気込んで一歩踏み出そうとすると、突然手に持っていた携帯電話が震えた。

……鈴木くんだ。

「鈴木くん?どうしたの?」

<後ろ。見て>

そう言われて振り返ると、ロータリーに停車していたタクシーから手を振る鈴木くんの姿を発見した。

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