クロスストーリー
「~~~~っハァ!!……はぁ…。」
額に脂汗を掻き、誰もいない浜辺でもだえ苦しむ様は滑稽にも映るがそれを笑う声も心配する声も無い。
青年は再び顔を洗った後、砂浜へと帰って行った。
「…カミヤ…痛…っ。」
断片的に記憶を失っている青年を助けたのは、自分と一緒に流されていた荷物の中にあった。
「助かった…名前まで忘れているからどうしようかと思ったけど…これで何とかなるかも」
そう言って手に持っているのは財布、その中に自分を表す証である証明書が入っていた。
ポケットの中に入っていたのを、今の今まで気付けなかったのだ。
「あと使えそうなものは…。」
ポケットを再び弄るもそれ以上出てきたものは無く、代わりに別の場所から自分の物がやって来た。
「あ…あのリュック…。」
波に掬われ、陸と海の間をユラユラと漂うグレーの物体。
遠目ではなんだか解らないほどくたびれていたが、この時カミヤと名乗った青年は本能的にそれが自分のものであると確信していた。
それ以上遠くに流されないよう、急いで駆け寄るとそのリュックを引き上げる。
「さて…何が入っているのかな?」
これ以上汚れないよう、浜からすぐの、海水で湿って固くなった砂の上に腰かけると男は中を開けるためファスナーを開いた。