彼は
「風邪ひくよ。帰ろう」


言うが、彼は私を睨んだまま動かない。
何かを恐れている、まるで猫のよう。

雨はどんどん強くなる。
彼に傘を被せていることで傘からはみ出した私の背中が濡れていく。


「送るから。帰ろう」


送るから、だなんて男の台詞だ。
言ってから気付き、少し変な気持ちになる。


「ほら、行こ」
「今すぐ目の前から消えろ」


私の言葉を彼の言葉が遮った。
突然の彼のその言葉は私の胸をチクリと刺した。
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