佐藤くんは甘くない
佐藤くんは、それだけ言うとそのまま私たちに背を向ける。
その背中は、いつか見た雨の日の背中と重なるほど、小さく見えた。
だんだんと、逃げるように、佐藤くんは家の中に消えて行く。
ただ、その背中を見つめるだけで、何も言わないその女性。
その人の表情は、私では到底計り知れない、複雑なものだった。
何かを、言うべきなのだろうか。
ここで、私は言ってしまったほうがいいのだろうか。
一度口を開いたけれど、それはやっぱり無駄だった。
ここで何かを伝えたとしても、それは無意味だ。私の口から言った言葉では、きっと何も伝えられない。
佐藤くん本人でなければ、意味がない。
どうすることもできなくて、立ち尽くしていたその時。
「……ごめんなさいね……見苦しいところを見せてしまって」
その人が、ゆっくりと顔を上げる。
周りに街灯もない、この不安になる漆黒の中ではその人が何を考えているのかは、読み取れなかった。
「いえ」
顔を合わせづらくて、私は故意に顔を伏せる。
「あなたは……那月くんのお友達?」
「……はい」
私が小さく頷くと、その人は口元を綻ばせて儚げに微笑む。
「そう……良かった。那月くん、女の人を毛嫌いしているところがあったから……」