佐藤くんは甘くない



あ、と小さくその女の人は声を漏らした。

それはひどく、脆くて、壊れてしまいそうなものだった。


見ている私さえ、胸が締め付けられる。


でも、佐藤くんは伏せたままだった。見たくないものを見ないようにする子供のように。表情を押し殺した抑揚のない声で、



「もう、来ないでください」


はっきりと、言い捨てる。

その人は、その言葉を聞いた瞬間今にも泣きだしてしまうほど、弱弱しい手で口元を押さえる。



……違う。

嘘だ。



「あの家に帰る気はありません」



佐藤くんは、嘘つきだ。



「もともと、あの家に俺の居場所なんてない」



だって、佐藤くんは。



「ありがとうございます。無理やり俺を気遣ってくれて」




───今にも、泣きそうな顔をしてるのに。




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