佐藤くんは甘くない



佐藤くんが、はっきりとした口調で言った。


どういう意味なのか、私にはわからない。

佐藤くんは、ぎゅうっと目をつむって口を閉ざした後、私から顔をそむけた。そうして、蚊の鳴くような小さな声で、





「俺のほうがずっと、アンタに執着してる」






そう、言った。

私は、声も出なくて目を見開いたまま、世界から切り離されてしまったみたいに、何も聞こえなくなる。


ただ、目の前にいる、佐藤くんだけが私の瞳に映り続ける。


「アンタよりずっと、嫌われたくないって、思ってる」


「……」


「アンタよりずっと、離れないでって、思ってる」


佐藤くんの肩が、震えていた。

何を、思っているのだろう。


たった6歳で、大切な母親が家を出て───仕事で出かけた父親を待って、ご飯も一人。何をするにも一人。一人で、生きてきて。



そうして、いつの間にか無遠慮にやってきた、見知らぬ母親と子ども。

大切な父親さえ奪われたような気がして。



それで、どうして平気でいられるんだ。



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