佐藤くんは甘くない
佐藤くんを廊下に出るよう促しても、佐藤くんは一向にその場から動く気配がなかった。それどころか、私に何か言いたげだった。
佐藤くんが私に何を言いたいのかはわからない。
でも、それを聞いて私の気持ちが揺らいでしまいそうになるのは、嫌だった。
「これ、置いておくので、佐藤くんも休憩が済んだら閉めておいてください」
私は両手に持っていた木箱と、ポケットに入れておいた鍵を机の上に置いて佐藤くんにそういった。
佐藤くんは顔を伏せたままで、表情は読み取れない。もしかしたら、私にそんな余裕がなかっただけなのかもしれない。
くるりと踵を返して、ドアに一歩、足を進め始める。
そして、ドアに手を掛けた、その時だった。
「───行っちゃ、やだ」
後ろから駆け寄るような音が聞こえたと思ったら、今度は耳元で、声がした。それは、聞いている私の胸がぎゅっと締め付けられそうになるほど、小さくて弱弱しい声。
ドアを開けようとしていた手を阻むみたいに、上から重ねられた私よりも少しだけ大きな白い手が、視界に入った。
反射的に、その手を振り切ろうと力がこもる。
でも佐藤くんは、私の手を握りしめて、離してはくれない。