佐藤くんは甘くない


苦しい。

胸が、苦しい。


どうして佐藤くんは、こんなにも私の心を揺さぶるようなことばかり言ってくるのだろう。私がもっと、心を強く持っていれば、この手を振りほどけたかもしれないのに。


ああ、佐藤くんは卑怯だ。

こんなにも私の気持ちを引っ掻き回して、私を諦めさせてくれないのだから。



「……嫌わないで」


「……」


「結城に嫌われたら、どうしていいか、分かんなくなる。……結城だけは、俺を置いて行ったりしないで。一人に、しないで。

 ……お願いだから、嫌わないで」


その悲痛な願いは、きっと、母親も妹とも離れてしまった佐藤くんのあのつらい思い出を呼び覚まさせてしまっていた。

何もできないまま、置いて行かれる寂しさを、誰よりも佐藤くんは知っている。


ゆっくりと息を吸い込んだ。冷たい空気が肺まで流れ込んできて、いくらか頭の中が整理された気がする。


これからつくことになる大きな嘘を、私はこの先ずっと守り続けられるだろうか。ひまりちゃんと佐藤くんの少し後ろで、二人が幸せでいられるように願い続けていられるだろうか。


……ううん。違う、守るんだ。何が何でも。


私はゆっくりと振り返る。それに気づいた佐藤くんも顔を上げる。その表情は、私の口にする言葉に怯えるみたいに、歪んでいた。



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