佐藤くんは甘くない
私は、もう喉も緊張で乾いて声も出ない。
小さく頷くと、佐藤くんは少しだけ安心したように手の力を緩める。
それからしばらく、佐藤くんは黙ったままだった。けれど、私から離れようとはしなかった。
時々聞こえる、不規則な息遣いから、佐藤くんがまだ私に言いたいことがあるんだと悟った。今更逃げる気は、起きなかった。
私の勝手なエゴで、佐藤くんを傷つけてしまった。
……せめて、これからも佐藤くんと今までと同じ立ち位置を守るには、こうするのが一番なんだ。
「……ゆう、き」
「……はい」
ようやく口を開いた佐藤くんが、また言葉を詰まらせる。小さなうめき声。何かを決心したように、もう一度大きく息を吸い込んで、言った。
「俺のこと、……きらいに、なった……?」
思ってもみなかった言葉に、驚いてえ、と思わず聞き返しそうになったのを堪える。
「もし、俺があんなくだらないことで怒ったから、結城が俺を嫌いになったりするんじゃないかって、ずっとずっと不安だった」
ああ、駄目だ。
振り向いちゃいけない。振り向いたら、私は、きっとこの毒に侵されたせいで、何かしてしまうに違いない。
「……い、やだ。女みたいだって思われるのよりも、弟だって思われるのよりも、結城に嫌われるほうが、もっともっと、嫌だ」